過去のモノとなりつつあるケガキ作業が無くならない事情

Antique Restoration

スタート地点となるケガキ作業

ものづくりのスタートは材料にキズをつける事(ケガキ作業)から始まる。
近年の金属加工においては、レーザー加工がすっかり主流になった。
穴開けや形を切り抜くと言った手仕事はパソコンでプログラムを作る作業に入れ替わり、職人に求められるスキルも変化していると感じる。
レーザー加工は個体差が無く、複雑な形状の切り抜きなどは特に加工スピードも精度(正確性)も格段に上がっている。

しかし修理という分野においてはこの文明の利器にお世話になる事は極めて少ない。
基本的に単品に対しての作業であり、バラしてみないと造りが決められないので、手描きの図面(瞬発性重視)とその場にある材料を加工して、現物合わせで作るといった事の方が適していたりする。
狂いや歪みが生じているものに対して精度のある部品を製作すると逆に整合性が取れなくなるというケースが良くあるからだ。

勘による微調整ができるか否か

手曲げのフレームや手作業で切り出されたプレートには個体差が当然生まれる。
そんな造形物に対して、四角四面に設計された部品はとても相性が悪い。
「角度や位置関係が規則正しく無い物」に合わせる部品を設計するには、その相手となるモノを「不規則的な形状を不規則的なままに」デジタルデータに書き起こす必要がある。
例えスキャニング技術が発展してきたとは言え、現在のスキャンの精度では、それが現物側の「歪み」なのかスキャンした際の「誤差」なのか判別する事は難しいので、まだまだアンティーク修理において実用的なレベルには達していないように思う。(その辺のテクノロジーの発展は著しいので今後の展開に期待したい)
だからこそ、ある程度ラフに、余地を持って設計したものを勘を頼りに微調整して「現物合わせ」をする事が修理には求められる。

ケガキ作業が重要である理由

反対に精度が必要な作業ももちろん当たり前にある。
それでもやはり単品作業がメインの修理では、このクラシックな「ケガキ作業」というのは未だ現役であり続けている。
主に穴や切断箇所の位置決めの為に、測ってはキズを付けるという作業の繰り返しは、動作的に難しさを感じられないからか、無意識にやっつけてしまいそうになるが、実は重要な工程である。

穴の基本的な役割は、部品同士を結合するためのボルトやネジ、ニップル(配線を通す穴の空いたネジ)を通す事が前提になっている。
穴の位置の精度を出す事は部品同士の嵌合(かんごう)性を高める事に繋がる。
部品Aと部品Bがあって、直径10mmの穴の位置が0.2mm(だいたい紙一枚分の厚み)それぞれが逆方向にズレていたら、組み合わさった時の有効な穴の内径は0.4mmマイナスとなり、直径9.6mm(正確には直径9.4mm)のものしか通す事ができなくなる。
モノとモノが組み合わさるには最低でも0.2mmのクリアランス(サイズの余裕)を確保しないと凹と凸は嵌める事ができない。
だから直径10mmのものを通したかったら相手となる穴は10.2mm以上で開ける必要がある。
言葉で説明すると大層な事をやっている様に受け取られてしまうかもしれないが、実際は手作業で行っている以上、わずかな誤差は生まれるのでクリアランスを多めに取り、組み立てる時に部品同士の心(または芯)を合わせる事が多い。
ケガキという最初の工程は、直接に製品の質を左右するわけではないが、作業性の向上に大きく影響する。

汎用性と専門性の境界

こんなに重要な工程なのでケガキの為の工具はたくさんありそうだが、意外と似た機能のものばかりで選択肢が少ない。
直線的に位置を出す用途のものは沢山見かけるが、困った事に照明の分野では円形や球体の形状の部品に穴あけ加工をする事が多い。
なかなか求めている機能のものは見つからないのが悩みだ。
様々な径の円形の割り出し(分割)とケガキができる装置が欲しいけど、当然そんなものは存在しない。
専門性や効率性を求めると自ずと特殊な動き(計測器やケガキ針の可動方法)が重要になる。
どこかの会社が作ってくれたらいいのに、と思ってしまうが、例え高額で販売したとしても採算が合わないことが容易に理解できる。そうやって工具を自作する羽目になっていく。
作ろうと構想し始めて1年経ってしまった。どこかの機会でその製作模様を発信できればと思う。

寺島

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