修理内容を決めるのは依頼者では無く、修理を断るのは僕ではない

Antique Restoration

依頼者からのオーダー内容

木のフレームが裂けてしまっている。
依頼者としては「裂けた箇所を接着だけして、組み立てる」という内容。

求められる作業と必要な作業のギャップ

通常、この現物に対してこのオーダーで引き受けることは、控えめに言って有り得ない。
オーダーとしては接着して欲しいという内容だったけど、それを額面通りに応えるというのは余りにも消費社会らしい対応だと思ってしまう。

すぐに同じ箇所が壊れることが目に見えている。
それが分かっていながら、不十分な処置をして依頼者に戻すなんて後味の悪い仕事は職人の立場では誰も請け負いたくないはずである。

求められる事のみをクリアし、壊れる度に修理をするという事は「修理ビジネス」の一時的な活性化には繋がるかもしれない。
だが仮に、修理ビジネスに徹するなら尚更、「すぐに裂けるであろう事を知っていて問題箇所を接着して組み直す」のような、即ユーザーの不利益に繋がるような仕事がまかり通ってしまっては、未来は暗いだろう。

今回は修理において、その具体的な作業内容はどう決まるのか、誰が決めるのか、という話をしたい。
結論から言えば、言うまでもなく修理者が、現物の問題点を洗い出して決めるべきだと、僕は思う。

「修理金額が安ければ直すが、商品の購入価格くらいになるなら諦める。」という感覚は誰もが持っているだろうし、それはそれで妥当な判断だと思う。
そもそも、その判断は修理者がどうこう口を挟むことではない。

ただ、お客さんが逃げない程度の予算に合わせて、修理とは言えないような不完全な処置をしてくれと求められたら、僕としては黙って従うわけにはいかない。

僕にとって、修理を仕事として成立させることが大事なのではなく、いざ修理したいお客さんが来た時に真っ当な仕事で応えたいだけだ。

冒頭で言ったように「引き受けない」というのは、予算が合わないから実行される事が少ないという意味。
この「依頼者の求める内容」と「専門家の見立てとして必要な処置」のギャップは、修理に携わる人にとって『日常茶飯事だが一向に解消される気配の無い問題』ではないかと思う。

今回は、このギャップが具体的にどのような物なのか、ブログの記事にするため、敢えて大赤字で引き受けてみた。

設計ミスのようなもの

修理で度々思う事だけど、「壊れるべくして壊れたモノ」は世の中に少なくない。
ビンテージやアンティークと呼ばれる年代の製造方法のものは作りがしっかりしていたり、上質な材料が使われている事が多いという話を聞く事がある。
それは僕もほぼ同感である。

しかし製品が世に出るには様々な事情が背景に潜んでいる事もあるだろう。
デザイナーの管理から離れ、それを製造する上で技術的にやむを得ない仕様変更や、狙った販売価格に合わせる為の材質の妥協という事は、いつの時代でも大きな課題であったのだろう。

僕の手元にやってきたこの照明も、まさにそんな製品だった。
決して雑に作られたものでは無い事は職人として理解できる。

問題は、形状と材料の組み合わせだ。

この形状を作るのに、バルサ材のような柔らかく密度の低い材を用いるという判断が、結果論だが良い選択では無かった。
バルサ材の加工性の良さが、製造コストの削減に貢献したことは理解できる)
1番負荷がかかる箇所の厚みが薄い事に加えて、縦方向の目になっているため、そこが簡単に裂けてしまう。

実際の見立て

依頼者がイメージする作業はおそらく、「接着」した後に「組み立て」という感じなのかもしれない。
実際のところ、この「接着」という作業のみに必要とされる大まかな工程を挙げると、

  • 3本の木フレームの位置関係を出す
  • シェードを支持する為の既存穴を利用した治具製作
  • 失くなったピースの隙間を埋めながら接着

【接着する前後に付随する作業】

  • 既存の接着剤の溶解、洗浄(接着前)
  • 接着箇所の研磨仕上げ(接着後)
  • 接着箇所近辺の塗装は研磨されているので、木フレーム全体の塗装剥離(接着後)
  • 木フレーム全体の塗装(接着後)

そしてやっとここで組み立てに入れるかというと、そういうわけにはいかない。
ここで組み立ててしまったら、せいぜいが「元通り」になるに過ぎない。


僕の見立てでは、さらに補強プレートを製作し、接着した木フレームの問題となる脆弱な箇所を上下でビス止めをする必要があった。

依頼する側からすると、そんな大掛かりな事をせずに、ただ接着するだけで良いように見えるかもしれない。
しかし、そもそも今回のケースは設計上必然的な破損。
接着の工程が終わって組み立てる最中に、また裂けてしまうかも知れない。
運良く完成できたとして、それを運んでいる間に壊れてしまう可能性はかなり高い。

修理内容には必然性がある

依頼者が求める「接着する」という作業は、修理者の視点からは「使用に耐えうる為に接着して補強する」という作業に変換される。

これらの工程を初めからイメージできる方は、ものづくりに知識を持っている方々だと思う。
しかし全ての依頼者に、こうした細かな事情をちゃんとイメージを持って理解してもらうのはなかなか難しいのも事実。
効率的に修理をこなしたい職人にとっては「修理不可」という結論を出してしまう気持ちもわからないでもない。

提示された金額が安いか高いかの判断は依頼者にとってかなり難しい事だと思う。
だからこそ、「専門家の見立て」を聞いた上で、修理するか否かを判断して頂きたい。
仮に購入価格に近い金額、あるいはそれ以上になってしまうとしても、その照明を使い続けたい理由があるなら尚の事考えて欲しい。
誰かからの贈り物、2度と手に入らないもの…僕らはそれを長く使い続けて貰うために必要な修理内容を決めて作業している。

修理に関しては、予算ありきで、それに応じたプランを提示するという事は、技術的にも心情的にも非常に難しい。
なぜならば、修理内容は現物の状態から、必然的に導き出されるものだからだ。

僕らは修理の仕事に対して、『しっかり機能してこれから更に10年使えるように』という思いで取り組んでいる。

修理依頼に対しては、受ける前に現物を精査した上で見立てを提示。
その見立てを踏まえて、それでも修理するのか、しないのかは依頼者の判断に委ねたい。

次回は接着する為にやる事、そして長く使う為に必要な事を工程を追って記事を書きます。

寺島 洋平

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